成長のための思考法
日本の「クラフトビール」の火付け役といわれている「コエドビール」を製造販売している株式会社協同商事/「COEDOブルワリー」(以下コエド)。
その代表取締役社長を務める朝霧重治氏が、奈良クラブ主催の「学びの場」を提供するプロジェクト「N.SEMINAR」の講師に招かれ、オンライン講演会が開催されました。
今回の記事では、「地ビールからクラフトビールへ、そして、再び地ビールへ」をテーマに、地域企業のブランドがどのような思考で成長し、地域と関わっていくのか、コエドの取り組みから学んでいきます。(この記事は11月21日に開催された第13回N.SEMINARの講演内容の一部を参考に、奈良新聞社が記事化したものです)
朝霧重治(あさぎりしげはる)
埼玉県川越市生まれ。Beer Beautiful をコンセプトとする日本のクラフトビール「COEDO」のファウンダー・CEO。川越産のサツマイモから製造した「紅赤-Beniaka-」を筆頭に、日本の職人達による細やかなものづくりと『ビールを自由に選ぶ』というビール本来の豊かな味わいの魅力をクラフトビール「COEDO」を通じて、武蔵野の農業の魅力とともに発信している。品質やブランドデザインに世界的な評価を受け、アメリカ、オーストラリア、中国、シンガポール、フランス、イギリス等各国に輸出されており、Globalな視点での活動も進めている。
川越で生まれたビール
「健康の基礎となる食べ物は安全でおいしいものを」その熱い思いからコエドの母体、株式会社協同商事は1970年代に有機農業の会社として創業され、1982年に会社設立、ビール・発泡酒製造販売事業は、1996年に誕生しました。
その拠点は都心からわずか30分の埼玉県川越市です。
川越には、畑の土壌を保つため麦を植えたのちに収穫せず、緑肥として加えて畑を耕すという古くからの農法があり、その麦を使ってビールを造ることがビール造りの着想の原点だったと言います。
1996年に川越の特産品のさつま芋を原料とした、発泡酒の製法特許を世界で初めて取得、コエドという名前も、江戸時代に川越藩の城下町として繁栄した川越の別名「小江戸」からとられています。
2006年から高い技術を持つビール職人たちにより造られた「クラフトビール」を製造、ビールのオリンピックと呼ばれている「ワールド・ビア・カップ」でシルバーメダルを獲得するなど、国内外で多数の賞を受賞。その功績は多くの人がクラフトビールの魅力を知るきっかけとなり、そのブランド力を高めています。
ブランドには様々な考えがありますが、朝霧氏は「個人、団体(企業や学校、行政など)、地域、国に限らず、自分のイメージと他者からみた自分のイメージが一致した状態であること」そして「他者との間にポジティブな信頼関係が成立し、競合と違うことで、ブランドの確立が成功した状態に近づける」と話します。
そして、ブランドは地域や多くの人と関わる上で重要な要素です。コエドはどのような思考や活動で、ブランド力やクラフトビールの魅力を広めてきたのでしょうか。
ビールの面白さを伝えるために
コエドではビールの面白さや素晴らしさを多くの人に伝えるために、一貫して「Beer Beautiful」という言葉が使われています。
朝霧氏はこの言葉の世界観を構築するため、ブランドデザインにはデザインディレクターの西澤明洋氏を起用、すべてのコミュニケーションアイテムのトータルデザインが続けられています。
▼COEDO BREWERYのブランドムービー
コエドのクラフトビールは、職人によるこだわりぬかれた味だけではありません。「Beer Beautiful」の言葉のもとに、あらゆる視点でビールの魅力が伝わるよう様々な工夫があります。
例えば、主力商品の「紅赤-Beniaka-」をはじめ、ビールの美しい液体の色も特徴です。
ビールの液体の色は、ベースとなる麦芽の種類や麦芽の乾燥具合など、様々な製法により変化させることができます。
主に暖色系を中心としたグラーデーションのように色を変えることができ、理論的には無色から真っ黒まで表現が可能です。
このように、ビールは色合いや香り・味わいも様々で、造り手の創造性が追求できることがクラフトビールの魅力であり面白さだと朝霧氏は話します。
「毬花」「白」「伽羅」「漆黒」
これらの商品は「あふれる日本の色」がコンセプトで、ビールの多様性の面白さや美しさを伝えるためのデザインやプロダクト開発がされており、「日本の色」が商品名に採用されています。
これは外来語では表現しきれない、日本人の感受性の豊かさや情緒で生まれた日本語の美しさを大切にしたい、そんな朝霧氏の思いも込められています。
例えば雨を表現する言葉一つをとっても、「霧雨」「小雨」「時雨」・・・、その時々や季節にあわせた豊かな言葉が多くあります
透明感のある味わいのビールを「瑠璃-Ruri-」という商品名にし、青を基調としたパッケージデザインで表現するなど、細部までこだわったブランド造りが進められています。
クラフトビールとして躍進を続けるコエドですが、現在に至るまで長い道のりがありました。
次からは、コエドの出発点とともに、どのような思考で成長を続けているのかをご紹介します。
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