OSK日本歌劇団の新トップスター楊琳さんお披露目公演インタビュー

娘役トップの舞美りらさん&千咲えみさんと共に

来年100周年を迎えるOSK日本歌劇団の新トップスター楊琳(やん・りん)さんのお披露目公演「レビュー夏のおどり STARt(スタート)」大阪公演が6月14日、大阪松竹座(大阪市中央区)で開幕します。OSKは1922年、翌年開場する大阪松竹座の舞台から新たなエンターテインメントを発信しようと、松竹楽劇部の名で創設されました。初日に向け、お稽古真っ最中の楊さんと娘役トップスターの舞美(まいみ)りらさん、千咲(ちさき)えみさんの3人にお話を聞きました。
(取材は5月22日、大阪松竹座で実施)

※大阪公演は当初6月12〜20日に計14公演を予定していたが、大阪府の緊急事態宣言延長を受けて土日の公演を中止し、14〜18日の計8公演に変更された。東京公演は8月5〜8日、新橋演舞場(東京都中央区)で行われる。公演の詳細は松竹ホームページへ。

OSK日本歌劇団の新トップスター楊琳さん。OSKの生まれ故郷、大阪松竹座前で

――公演タイトル「STARt」は「START」「STAR」そして、魅力的なステージに欠かせない「ART」から。2019年の『STORM of APPLAUSE』でも大好評を博した平澤智さんが作・演出・振り付けを手がけます。大阪松竹座や新橋演舞場、京都四條南座での公演は通常、和物、洋物の2本立てですが、今回は異例の洋舞レビュー2幕。資料にザッと目を通しただけでも、ワクワクする場面が並んでいます。

楊 洋物のお芝居と洋舞レビューという公演はこれまでにもありましたが、洋舞レビューの2幕ものは初めてです。全場面に注目していただきたい内容が詰まっています。

―—しかも『楊が全景に出演し奮闘する』と書いてありますが…。

楊 はい。出てますね!! 登場が短い場面もありますが全部の景に出ています。

楊琳さん

―—ゴールドの衣装に身を包んだ楊さんが登場するオープニングは「Club Art」。大人の魅力の情熱的なダンスはもちろん、懐かしの娘役ユニット「チェリーガールズ」を思わせる楽曲もある。躍動感あふれる「チェリーガールズ」には、かつて舞美さんも参加していました。

舞美 今回は下級生のピチピチ娘役ちゃん4人組がクラブのショータイムにシンガーとして出演する設定です。メンバーは初日のお楽しみです(笑)

舞美りらさん

―—楊さんが3枚目を演じるコミカルなシーンも。

千咲 1幕の「スーパースターマン」は、ほかの景とちょっと色合いの違うストーリー仕立ての景です。思いっ切り、明るい気持ちになっていただけたらうれしいです。

―—楊さんはスーパーマンに憧れる、さえないサラリーマン。そして、千咲さんは、この景のヒロインなのですね。

千咲 楊さん、そしてみんなを励ます応援係というイメージでしょうか。そして、最後はみんなで総踊り!!

千咲えみさん

―—とっても、楽しそうです。

舞美 私はこの景に出ていないのですが、下級生にいたるまで、みんなの個性があふれ出ていて、舞台のどこを見ても楽しくて楽しくて。ダンスシーンで『自分の自由に動いていいよ』というところがあるのですが、『この人は、こういう風に表現するんだ』って、常に新しい発見があって本当に楽しいです!

「レビュー夏のおどり STARt」のポスターの前で。楊さん、舞美さん、千咲さん(右から)

―—「STARt」は全編を通じて、上級生はもちろん下級生までそれぞれにスポットが当たる内容とうかがいました。

楊 はい。ここまで一人一人をピックアップして見せ場がある、という作品は珍しいと思います。平澤先生の『みんなを前に出してあげたい』というお気持ちがすごく伝わってきます。

―—そして1幕ラストの群舞はコンテンポラリーダンス。どのような景なのでしょう。

楊 テーマは「風」。常に強い風が吹き荒れている。その風は追い風であったり、向かい風であったり、いろんな意味の風があります。もちろん、来年の創立100周年をふまえた新しい風も。みんなでしっかり表現できたら、と思っています。

―—『踊りのOSK』のダンス力を結集したコンテンポラリーダンス! これは絶対、見逃せませんね。

楊 今までにない体の使い方をするので難しさも感じています。振り付けて下さる中山菜先生がとても格好良くて、あんな風に踊りたい! と思いつつも、なかなか、そのように動けなかったり。そこを頑張ってお稽古しています。

舞美 この群舞について平澤先生がおっしゃるのが「いつものOSKの踊りをして欲しくない」ということ。群舞ではいつも角度をそろえたり、というところにも気を配るのですが、この景は特に「振り付けの先生のニュアンスをしっかり受け取った上で、自分の感じたまま、自由に表現して欲しい」と。ひたすらに音を感じて…そう、個々の戦い、ですね。

―—2幕は、OSKのこれまでの歩みや100周年への思いを込めた大コーラスで幕が開きます。

楊 題名は「バトン」。先人たちの思いを受け継いで、次なる時へとバトンをつないでいく。良い意味で重い歌詞になっています。みんなの思いが交差して、昇華する、という感じですね。

―—さらに、ラインダンス、デュエットダンス、黒燕尾の男役さんの群舞で始まるフィナーレといったレビューの定番はもちろん、耳馴染みのある曲の数々が楽しいミュージカルメドレーや若手男役さんたちに楊さんが加わってのクールな景も。

楊 若手のみんなとの男役だけの景は、目指すはK—POPという感じで、今までになかった場面になると思います。

―—本当に盛りだくさんな作品です。今、お稽古はどのくらいまで進んでいるのでしょう。

楊 ちょうど3分の2くらいでしょうか。今回のお稽古は、同じ景に出る人がそろって進めるのではなく、まず少人数に分かれての振り付けがあります。

大阪松竹座「レビュー春のおどり」フィナーレで踊る楊さん(前列右)、舞美さん(前列左)、千咲さん(2列目中央)=2021年1月

―—コロナ禍の今、作品の作り方もこれまでとは変わっている。

楊 はい。お稽古初日に全員が集合する顔合わせはなく、少人数ごとに振り付けを受けて、後から合わせていく、という進め方ですね。昨日はちょうど『ミュージカルメドレー』の全体を通して、流れを整理していました。

舞美 複雑なスケジュール調整や、控室でも密にならないように配慮して下さるスタッフの皆さん、本当にありがたいです。

―—マスクは常に着用とのこと。マスクを着けてのダンス、苦しくないですか?

楊・舞美・千咲 めっちゃ苦しいです!!

―—激しいダンスシーンの連続を笑顔でこなされるOSKの皆さんのスタミナは、今までもすごかったですが、コロナが明けたら、もっとすごいことになっているのではないでしょうか?

楊 そういう風に思ってお稽古しています(笑)

コロナ禍による公演延期のため、約1年7カ月ぶりに大阪松竹座のステージに立った楊さん=2020年11月

千咲 『スーパースターマン』のところも、最初は男役さんと娘役に分かれてお稽古していて、先週、初めて『合体』したんですけど、倍以上のパワーを感じました。

―—プラスアルファのパワーですね。コロナ禍は一日も早く収束してほしいけれど『我慢』をして取り組む中に新しく得るものもある。昨年は4月の「春のおどり」が延期となり、8月に無観客でのオンライン公演が始まるまで、公演活動の完全休止という大変な状況がありました。

千咲 コロナ禍を経験しているからこそ、お届けできるものがある、と信じています。大変な状況の中で劇場に足を運んで下さる皆さまに、それぞれが我慢していらっしゃる日常をひととき、忘れていただけたら。私たちにとって公演は『光』ですが、お客さまにも、そう感じていただけたらいいな、と心から思います。

昨年2月末の初演時にコロナ禍で公演期間の大幅な短縮を余儀なくされるも、12月に再演を果たした「愛と死のローマ~シーザーとクレオパトラ~」でユリウス・カエサルを演じる楊さん

―—さて、ここで、皆さんの歩みを、ほんの少し振り返ってみたいと思います。2003年に解散の危機を経験したOSKは新たなスタートを切り、2004年春、大阪松竹座で66年ぶりの「春のおどり」を上演しました。この時の舞台を見て入団を決意された楊さんは翌年、研修所に入所され、2007年に初舞台。舞美さんは2010年、千咲さんは2013年にそれぞれ初舞台を踏まれました。

楊 初舞台のお稽古は当時OSKが拠点にしていたフェスティバルゲート(大阪市浪速区にあった都市型立体遊園地を併設したビル)でした。お稽古場がふさがっている時、屋上やエレベーターホールに集まってお稽古していたら、ジェットコースターが近くを通る音が聞こえたのも思い出です。

―—大阪市港区の小劇場「世界館」で定期的に公演していた時期もありました。
舞美 研修生時代、世界館で、もぎりや客席案内をさせていただきました。お手伝いをしながら楊さんたちの公演を拝見しておりました。

千咲 私は研修所の2年目から現在の場所で学びましたが、世界館のお手伝いは経験しています。「フレッシュ・ソーダ・バルーン」という作品で、舞美さんが出ていらっしゃいました。

―—83期生の楊さんは新生OSKに入団した劇団員さん初のトップスター。3人のうちで一番強く、時代の変遷を経験されたのではないでしょうか。

楊 そうですね。でも、私は2004年夏まで新生OSKの研修所があった、あやめ池の旧日本歌劇学校(奈良市)は知らないんです。なので、特別専科のお二人以外で、すべてのお稽古場を経験されているのは82期の虹架路万さん、白藤麗華さんだと思います。

―—特別専科のお二人、前トップスター桐生麻耶さんと娘役の朝香櫻子さんも「STARt」に出演されます。桐生さんが2019年に主演された平澤作品「STORM of APPLAUSE」で強烈な印象を残した「運命」の場面をオマージュしたダンスシーンもあるとうかがいました。

楊 桐生さんとご一緒する景の振り付けはこれからなのですが、とっても楽しみで、すごく心強いです!!

―—楊さんは今年4月1日、桐生さんが特別専科に移籍されたのを受けてトップスターに就任されました。桐生さんからバトンを受け取られて、ご自身に変化はありましたか?

楊 一番大きな変化は、自分はOSKの看板なんだ、という自覚です。私、本当はあまり社交的ではないし、慎重に言葉を選んでいるうち、伝えたいことの半分も話せなかったりする人なんです。でも、トップスターの立場でそんなことは言っていられない。性格とは関係なく、きちんと動けるようになってきたと思います。

―—そうなれたのは歴代のトップスターさんの背中を見てこられたことが大きいのでしょうか。

楊 いや、トップスターであるかどうかに関わらず先輩方全員の姿から、ですね。解散・存続を経験された方々って、すごい行動力だと思うんです。署名活動から始めて、全員が宣伝活動を担ってこられた。「OSKを知っていただきたい!!」という情熱にあふれた姿を小さいころから見ていて、すごい、と感じていました。

―—小さいころ! 「下級生のころから」という意味ですね。OSKの皆さんは大先輩のOGさんをはじめ皆さん、この言い回しを使われます。そのフレーズを楊さんからお聞きするのも、とても感慨深いです。

桜パラソルが舞台一面に花開く「桜咲く国」は1930年から歌い継がれているOSKのテーマソング

——いろいろな時期を経て、来年100周年を迎えるOSK。皆さんが感じるOSKらしさ、OSKの魅力って何でしょう。

千咲 OSKらしさといえば、やっぱり『The Show』!! 私が初めてOSKの舞台を見たのは、ここ大阪松竹座での公演だったのですが、華やかな、本当に華やかな舞台が強く心に残って、ここに入りたい! という気持ちになりました。OSKのショーは、ほかのどこにもないもの。歴史の裏打ちもすごいし、国内はもちろん、海外にも誇れる、素晴らしいものだと思います。

舞美 舞台に対して貪欲で一人一人の情熱がものすごく熱い!! それがOSKらしさだと思います。解散の危機や存続活動、私たちは実際には経験していませんが、今回、演出や振り付けの先生方に『DNAは必ず受け継がれているはず。いろいろな歴史を経てきたOSKでしかできないものを演ってほしい』と言っていただきました。美しさ、華やかさはもちろん、あふれ出る、血がたぎる、というのでしょうか、そういう熱気を、お客さまにお届けできたらな、と思います。

楊 OSKらしさとは生命力の強さだと思います。OSKは戦時中も、終戦直後も、ずっと公演をしていました。解散の危機も劇団員自身が立ち上がり、乗り越えました。「どんな時も負けない!」。この精神こそが、一番のOSKらしさだと思います。解散の翌年、新生OSKが大阪松竹座で66年ぶりに上演した「春のおどり」がきっかけで、自分の進む道を決めた私と同じく、私たちの舞台を見てOSKに憧れ、入団してくる子たちが、これからもたくさんいるでしょう。その子たちの夢を叶えるためにも、100周年はもちろん、その先の未来へと進んでいかねばなりません。

大阪松竹座の客席に立つ楊琳さん

——さまざまな困難を乗り越えてきたOSK。皆さんも、舞台人としての歩みの中で、それぞれ壁を乗り越えて来られたことと思います。ここからは少し、皆さんの気持ちの切り替え方などについてうかがってみたいと思います。

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